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翌日早朝。アリアとニユは今は亡きノアの家に向かった。悲しい知らせを携えて……。
ノッカーを握るが、拳に力が篭もるだけで叩く事が出来ない。思い切って扉を開けようと手を伸ばすが……躊躇ってしまう。
引き延ばされた一瞬の逡巡の末、アリアは玄関の扉を引くと拍子外れにも簡単に扉は開いた。以外と言うか、不用心と言うか鍵は掛けられていなかった。
そして……不意に脳裏を過ぎったノアの言葉。彼女は、もう立ち歩く事は叶わないのだと。
失礼だな……とは思うが無言でノアの家に入り、階段を登る。今は「お邪魔します」の一言ですら発してはならないような気がした。
短い廊下を歩き扉に正対すると、これから伝える悲しい知らせに……気が重かった。
躊躇いがちなノックに、この部屋の主が苦しげではあるが明るい声で応える。
アリアは思い切って扉を開けると、部屋の主はベッドの上で身を起こしていた。
「おはようございます、シルフィさん。……お加減はいかがですか?」ニユは丁寧に挨拶して様子を窺う。
彼女は紙のように、蝋のように白い顔で微笑んで見せるが、生命の気配が薄い……それが痛々しかった。
「あのね、シルフィ…貴方に伝えなくちゃいけないことがあるの……」アリアは事実を伝えようと感情を押し殺して話そうとするが、声の震えをどうしても隠す事が出来なかった。そんなアリアをニユは手で制し、淡々と言葉の後を継いだ。
「昨晩、ノアは暴漢に襲われて命を落としました。」
シルフィはニユの言葉に静かに首を振る。そして、暫しの沈黙……。
「私は…昨日あなた方が帰られた後にノアに聞きました。隠している事、私に言えない事をしているの……って。」
アリアとニユは静かにシルフィが言葉を継ぐのを待つ。
「彼は全てを話してくれました。公子の家に伝わる魔法の槍を盗む手立ての事、今晩それを引き取りに行く事……そして、その槍の魔法の力で私を治そうとした事も……」
「だったら、何故……何故止めなかったの!」
「私も止めました……。でも、他の事が考えられなかったのでしょう……。」俯き、視線が彷徨う。沈黙が淡雪のように降り積もる……。
「イジュラン公子は貴方が希望するのでしたら、治療の……」ニユはイジュラン公子の申し出を伝えようとするが、それを遮るように再びシルフィは静かに首を振った。
「神様が私に与えてくれた時間は残り少しなのです。ですから、例えこの病を癒す方法が在っても私はお受け致しません。」
「ノアは……貴方の病気が癒える事を願っていたのではなかったの?」
「彼はそう願っていました。でも……魔法で病を癒す事は、人として自然な在り様ではありませんから……」覚悟を決めた微笑が痛々しく、悲しかった。
イジュラン公子 邸宅
「そうか……」公子は執務室でゼクスから冒険者達の行動を聞いた。
「イジュラン……オレは、ノアを生き返らせてシルフィの病気を癒してやりたい。そう願うのは…悪い事か?」ゼクスは紅茶を運びながら尋ねた。
「出会った、縁ある人を助けるのは吝かではない。が、それは俺達にとってはしてはならない行動だ。」
「…冷てぇのな、オマエは。」ゼクスは机に腰掛けて、口を尖らせる。
「無制限に与える救いの手は罪であり、悪だ。貴族の務めは民草の声を聞き、政によって数多の人々を助ける事だ。例え、見知った誰かを見捨てる事になっても……な。」
紅茶の注がれたカップを見つめながら、誰が聞くともなしに呟く。
「オレにはそんな難しい事、わかんねーや。……ん?」ふわり、と立ち上がるイジュランをゼクスは見つめる。
「ドコに行くんだ?」
「治める側の理屈に満足できない自分を、慰めに出かけるのさ。」笑って言ったにしては、声は苦かった。
後日、マーファ神殿の施療院に一人の女性が収容された。
数日後、ひっそりと息を引き取る彼女の側には青年と少年の姿があったと聞く……。
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