| エピローグ 2 :ニユ=クリア=ウェフォンの日常より
破壊王(候補)は何かと忙しいものである。
蛙亭にて日々繰り広げられるちみたんとの果てしなく微笑ましい抗争から逃れ、
ニユはオランの市場をあてもなく彷徨っていた。
その足元を、使い魔の黒猫も尻尾をピンと伸ばして付き従っている。
「はぁ…これでも俺様は魔王から世界を救ってやったんだぞ…。」
それをあのちみたんどもは。もう少し敬うという姿勢を見せてくれても良い物を。
ぶちぶちぶちぶち呟きつつ、ふと見覚えのある店先でニユは立ち止まった。
「……………。」
そこは一軒の貸本屋であった。
店の主の書籍集めの趣味が高じてできたような店で。
値段も余所よりも安く、延滞にもあまり厳しくない事もあり、かつてはニユも足繁く通っていたけれど。
好んで借りていた『魔王コンテンツシリーズ』の真実を知ってしまってからは。
ほとんど店の側に近づく事すらなくなってしまっていた。
「何か…何もかもが懐かしいな。」
尊大に呟いてニユは店の方へ視線をやる。
「あのティーが作家にも満たないただのメモり魔だと知ったら…ここのオヤジもガックリ来るだろうか。」
ククッと喉を鳴らすも、道のど真ん中で立ち止まっていたら、普通に邪魔なだけである。
通行人の肩にガツンとぶつかってしまい、華奢なニユは大きくよろめいて倒れた。
「ひべしっ……貴様、何するんだこの……ライトニィィンーーー!」
顔面から地面と激突し、慌てて身を起こしながら反射的にニユは呪文を詠唱しようとするも。
さすがにこのオランの人混みの中。通行人の姿は見えなくなってしまう。
ニユは一つため息を付いて、服の汚れを払いながら立ち上がった。
「真の魔王は、下民の一挙手一投足如きには寛容なのだ、うん、そうなのだ。」
自分を納得付かせるように呟きながら。
改めて、ニユは店先に並んでいる写本のラインナップを眺めてみる。
料理の本、恋愛小説、さまざまな物が一緒くたになって並んでいるようだ。
「ちみたん撃退法なんて都合のいい本でも…あるはずないか。」
一瞬だけ脳裏に浮かんだ考えを、口に出しつつ否定して。
「何か…疲れたな……お腹も空いたし。帰るか。」
がっくり肩を落とすと、ニユは店頭でミィミィ鳴いている黒猫を残して歩き出した。
「……ニャァ〜。」
蛙亭へ帰ろうとする主に向けて何かを呼び掛けるような声で鳴く黒猫。
その傍らには一冊の写本。
『ティー=デュプロウ著 魔王コンテンツシリーズ・ニコニコ団物語…魔王、その若き日に』
・・・Fin.
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