ちっちゃな冒険者
![]()
○月×日 晴れときどきくもり 今日のおやつ・・・ちーずけーき きょうも、うぃちたちゃんとうぃぐるちゃんとこうえんで遊んだ。 またぼーけんしゃさんたちのお話を聞かせてもらった。 いっぱい、いっぱいどきどきした。 いいなぁ、うぃちたちゃんたちはぼーけんしゃさんたちといっしょで。 まりんも早くぼーけんしゃになりたいのにな。 でもパパもママもなっちゃダメって言うんだもん、なんで? 女の子のぼーけんしゃだっていっぱいいるのにぃー。 ぜったい、ぜーったいなってやるんだから。 それで、すっごいぼーけんしゃになるんだもん。 まりんふぁいとーっ! 「ふぅ、今日の分おーわりっと」 家具から置いてある小物まで、全てが可愛らしいつくりの子供部屋。しかし、可愛いぬいぐるみの隣には、到底この部屋には似合わないであろう剣や盾・・・のレプリカが大事そうに飾られている。 そんな奇妙な部屋のベッドの上に、小さな女の子が寝転がっている。 ショートカットにしている髪は薄茶色で、くりくりとした青い瞳は元気に満ち溢れている。 「あ〜、早く明日がこないかなぁ〜」 その子が両手で抱えるようにして持っている本のタイトルは、「まりんのにっき」。タイトルの下にはしっかりと「マリンいがい読んじゃダメ」と書かれてある。 少女はその日記を胸に抱きながら、何やら落ち着かない様子でベッドの上をごろごろと転がっている。 「あ、明日は早起きしたいからそろそろ寝なくちゃ」 その女の子・・・マリンはベッドからぴょんと飛び降りて、自分の日記を机の引き出しに片付けると、もぞもぞとベッドに潜り込んだ。 「それじゃ、おやすみなさぁい・・・」 ・・・・・・・・・・もぞもぞ・・・・・・・・・・・もぞもぞ・・・・・・。 しばらくの間、まるで奇妙な生き物のように蠢き続ける毛布。 「・・・・・・う〜・・・ねむれないよー」 毛布から頭だけをぴょこんと出して、マリンは真っ暗な空間を見つめる。 「どうしよう・・・このまま起きてよかな〜。でもでも、明日眠くてふらふらになっちゃうのもイヤだし・・・」 色々考えている内に遊び疲れていたのか、そのままマリンは毛布に包まれて気持ちよさそうに寝息を立て始めた・・・・・・。 「マリン、そろそろ起きなさい。もう朝ごはんできてるわよ?」 朝日を浴びながら、小鳥の囀りと共にマリンの体を優しく揺すっている長い髪の女性。その髪の色や質、瞳の色、顔立ちなどマリンに良く似ている。 「ん〜・・・もうだいじょーぶだよぉ・・・」 「大丈夫って何が大丈夫なの?もう、ほら、早く起きなさい、今日のこと楽しみ にしてたんでしょう?」 マリンの母、フィエナはそう言いながらベッドに腰を降ろして、そっとマリンを抱き起こした。 「ふえ・・・今日の・・・こと・・?」 マリンはフィエナにぎゅうっと抱きつきながら、寝ぼけ眼で何とか返事をする。 「ほら、今日は朝からウィチタちゃんとウィグルちゃんのお家に遊びに行くんじゃなかったの?」 「っ!?・・・ぅおっはよー、ママっ。もう、急いでじゅんびしてちょっとでも早く行かなくちゃっ」 母のその一言で完全に目を覚ましたマリンは、がばっとベッドの上に勢い良く立ち上がる。 そして、元気いっぱいに朝の挨拶をしたと思ったら、ベッドをぴょんと飛び降りて、ばたばたと走っていく。 「ママー、はやくはやくぅーっ」 「もう、あの子ったら・・・マリ〜ン、ごはんの前にはちゃんと手を洗わなくちゃダメよー?」 困ったような、しかし幸せそうな笑みを浮かべながらマリンの後を追いかけていくフィエナ。 ―――所変わって、こちらお馴染み「あごのはずれたかえる亭」・・・通称、「蛙屋」。 冒険者を対象とする店が多いこのオランの街でもそこそこ有名な店である・・ ・・・・いろいろな意味で。 今、そんな蛙屋の店内にある舞台の上で、小さな女の子が瞳をきらきらと輝かせながら立っている。そしてその隣で事の経緯を説明しているのは、ふわりとした笑顔の似合うエプロン姿の女性。 「・・・と、言うわけでして、今日一日このお嬢さんをお預かりする事になりました。是非、皆様と同じ冒険者として接していただけると嬉しゅうございます」 ここで生活している冒険者達を前にして、蛙屋の女将であるユイから紹介されたマリンは、緊張と興奮で頬を紅潮させている。 何故こんなことになっているのかというと、日頃から冒険者になりたいと言い続けているマリンが、その情熱と好奇心から危険な目に会わないとも限らない、そう思ったフィエナが友人のユイに頼んで、この蛙屋で冒険者を体験させてもらっているのだ。 「では、自己紹介をお願いいたしましょうか」 ユイが優しい微笑みをマリンに向ける。 「え、えとっ、マリンですっ。・・・あっ、マリン・ファスターですっ。6さいですっ。今日は一日よろしくおねがいしますっ」 ほっぺたをピンク色に染めながらはきはきと挨拶して、ぺこりっと勢い良く頭を下げる。 『かわいい〜』 『よろしくなー』 などなど、周りの冒険者達から拍手と歓迎の言葉がマリンに降り注ぐ。 「はい、よく出来ました。それでは皆様仲良くしてあげてくださいませね」 ユイはそう言って微笑むと厨房の仕事へと戻っていく。 マリンはというと、落ち着かない様子できょろきょろと周りを見回している。 そんなマリンめがけてやって来たのは好奇心の塊、ぐららんず。流石にこういうことに関しては行動が早い。 「俺はトニス、とにちゅでもとにちゅんでも好きに呼んでくれぃ。よっしくー」 「やほー、初めまして、オレルーフ。よろしくー」 ふわふわとした若草色の髪、ぽっこり出た下っ腹の持ち主がトニス。金褐色の髪とくりくりとした緋色の瞳で、よく蛙屋の入口に落ちているルーフ。 マリンとぐららんず、3人並んだところでその歳の差を全く感じさせない。 「うんっ、よろしくー。うわぁ、ちっちゃーい」 「ちっちゃい言うなっ」 「でもホントのことなんだけどネ〜」 二人を指差しながら笑うマリンにトニスがすかさず突っ込み、ルーフはその横でくるくると回っている。 「でも、こうやって並んでたらマリンも冒険者に見えるかもしれないよ?」 グラスランナー二人と背比べしながら、マリンはちょっと嬉しそうだ。 「うわー、可愛過ぎるぞそこの三人」 思いっきり頬を緩めながら三人を眺めているのは、褐色の肌に銀色の髪が映える一人の青年。 「にょはー、そんなホントのこと言われると照れるなぁ」 「ちっちっちっ、『渋い』の間違いだろ?」 「カルセア、類は友を呼ぶって言葉知ってっか?」 ルーフとトニスがそれぞれ違う反応を見せる中、カルセアと呼ばれた青年の後ろから、コーヒーカップ片手にすかさずつっこみを入れたのは、同じように褐色の肌に白銀の髪の少年。 その少年はマリンの傍まで歩いてきて、 「おはよーさん。オレはパール、よろしくな。そこのおっちゃんには気をつけた方がいいぞ?」 と、にやにやしながら挨拶をすると元の席に戻っていく。 「こらパール、誰がおっちゃんだっ。っていうかその前に子供にそういうこと言うと本気にしちゃうだろっ」 しかしパールは、本当の事だしなー、と言ってコーヒーを一口。カルセアを全く相手にしていない。 にも関わらず、抗議を続けるカルセアの背後に忍び寄る一人の男。背の高い褐色の髪のその男は、今がチャンスとばかりにカルセアを背後から抱きしめる。 「いやいや、可愛さならハニーも負けてないぞ?」 「フェイド、お前までそんなこと言うか・・・って、こんな所でくっつくなっ」 「まぁまぁ、らぶりぃでも何でもハニーは俺のハニーだぞ?じゃあ、どこでならくっついてもいいんだ?」 そう言いながら抱きついたままカルセアの頭をぽんぽんと撫でるフェイド。 「どこでもだっ、頼むから離れてくれ〜」 カルセアは顔を赤くしながらじたばたもがくものの、べた〜っと張り付いたフェイドは全く動かない。 「つまらんなぁ・・・じゃあちゅーするか、ちゅー」 カルセアの頬にんーっとフェイドの顔が迫ってくる。 「こ、こらっ、やめろっ!?みんなもそんな目で見るなーっ」 しかし、周りのギャラリーからは二人に対して生暖かい視線が送られ、『お構いなくー』とか『見せつけやがって』、さらには『ひゅー、ひゅー』というような返事しか帰ってこない。 マリンはと言うと、「何か変だけど楽しそうな人たちだな〜」と、そのやり取りを面白そうに眺めている。 そんなこんなで蛙屋の冒険者達と話をしていると、厨房の方から何やら美味しそうな香りが漂ってきた。 「くんくん・・・うわぁ、何だろいい匂い〜」 マリンはその香りに引き寄せられるように、厨房の方に向かっててけとこ走っていった。 厨房の中には二人の男女、その前のカウンター席に一人の青年が座っている。 「ねぇナリス、これはまだいいの?」 同じ厨房にいる男性にそう尋ねているのは、ショートカットの黒髪に、緋色の瞳が印象的な凛々しい女性。 「ん?そうだな、もう少し見ててくれるかい?」 「うん、わかった」 ナリスと呼ばれた男性は紅茶色の髪のしっかりとした体格の持ち主。今は鮮やかな手つきで魚を三枚に下ろしている。 「で、ウィンドはいつまでそこにいるつもりなんだ?」 そう言われて、今まで羊皮紙に視線を落としていた青年がおずおずと顔を上げた。 「べ、別にいいじゃないですか。ここで芸術に思いを馳せているだけなのです」 黒髪に青い瞳のすらりとした青年があたふたしながら答える。 「もう味見なら済んだからな?」 「なっ、何て事を・・・普通に食べるのも美味しいですが、出来立てのものをつまみ食いするという私の至福の時が〜・・・」 ウィンドはその場にへろへろと崩れ落ちた。 「もう、大袈裟だなぁ。ちゃんとウィンドの分も作ってるからみんなと一緒に向こうで待ってなさい」 「はい〜・・・そうします〜・・・」 アリアがくすくすと笑いながらそう言うと、ウィンドは思いっきり肩を落としながらみんなの方へ歩いていった。 「まったく、ウィンドにも困ったものだな」 「まぁまぁ、ウィンドらしくていいじゃない」 ウィンドの後姿を眺めつつ、顔を見合わせて微笑みあう二人。 そんな二人を美味しそうな匂いに誘われてやってきたマリンが見上げている。 ふと、その視線に気付いたナリスが少し目線を下げて声をかける。 「君が話題のかわいい冒険者さんかい?私は神官をやっているナリスというものだ、よろしく」 「うん、ほんと、可愛いね〜。私は精霊使いのアリア、よろしくね」 目線が同じになるようにしゃがんで、微笑みながらマリンの頭を撫でるアリア。 「よろしくお願いしますっ・・・・・・うわぁ美味しそう〜」 元気よく挨拶するものの、すでにマリンの気持ちは二人が作っている料理の方へと。 「今お昼ごはん作ってるところだから、後で一緒に食べようね」 「ただし、厨房は火を使っているし、包丁などの刃物もあるから気をつけるんだよ?」 マリンは自分に優しい言葉をかけてくれる二人を見上げて、 「ねぇねぇ、二人はふーふ?」 「なっ・・・・・・」 「ねぇ、ふーふ?」 言葉を詰まらせる二人にさらに問い掛ける。 「あ、えと・・・うん、夫婦なんだけどまだ慣れてないというか・・・その・・・あの・・・ねぇ?」 アリアは『夫婦』という単語に、その頬を真っ赤に染めてあたふたしている。 ナリスの方も多少照れてはいるようだが、その顔には優しい笑みが浮かんでいる。 「いやー、やっぱり子どもにはわかるのだわねぇ〜」 その声に三人が振り向くと、そこには天井裏から伸びてきているロープにぶらーんとぶら下がっている赤い髪の女性が。 「・・・レシュ・・・いつの間に・・・」 ナリスは驚くというより、半分呆れているようだ。 「でっ、でも、マリンちゃんどうして急にそんな事を?」 話題を変えたかったのか、まだ顔の赤いアリアがマリンに訊ねる。 「ん?、そう言うと二人が喜ぶよって、あっちにいた変な喋り方の変なおにーちゃんが言ってたよ?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 しばしの沈黙の後。 「・・・ガルだな」 「ガル・・・だね」 「ガルだわね」 三人が同時に呟く。 「これは、あとでたっぷりとお仕置きしないといけないなぁ」 「もちろん手伝わせてもらうよ、ナリス」 二人は見つめ合い、頷くのであった。 「後で、なんてつまんなーい、せっかくネタになると思ったのに残念だわねぃ。それじゃ、後は若い二人に任せるだわ」 そう言うと、レシュはにょほほほ〜と変な笑い声を残して、するすると天井裏へと戻っていった。 「・・・レシュ・・何だったんだろ・・・・・・」 「アリア・・・気にするだけ無駄だよ・・・」 「・・・ナリスさんとアリアさん、お似合いだね」 並んで遠い目をする二人を楽しそうに見ていたマリンが、急にそんなことを言うものだから、先程から照れっぱなしのアリアはより一層その頬を染めることになる。 「もう、マリンちゃんまでそんなこと言うの?」 「だって、マリンのパパとママに似てるんだもん。二人ともとっても幸せそうだよ?」 そう言って、二人に向日葵のような笑顔を向けた。 「うん・・・そうだね、ありがとう」 アリアもその笑顔に応えるように微笑む。 「さぁアリア、そろそろ料理を出さないとまたうるさくなるぞ?」 それまで笑みを浮かべながら、二人を眺めていたナリスが次から次へと料理を皿に盛りつけていく。 「あ、もう完成?じゃあ早く持っていかないと、みんなお腹すかせて待ってるからね。マリンちゃん、手伝ってもらえるかな?」 「うんっ」 マリンは元気よく返事をすると厨房の奥へと駆けて行く。 アリアとマリンによって料理が運ばれ、集まったみんなで楽しい昼食が始まった。 そして今日も蛙屋はみんなの笑顔と笑い声でいっぱいになるのでした。 騒々しい昼食争奪戦にもようやく幕が下り、ゆったりとした時間が流れる蛙屋の昼下がり。 裏庭の陽だまりの中を、少女が子犬の様にちょこちょこと駆けていく。 「ナリスさんとアリアさんの作ったお昼ごはん美味しかったなぁ〜♪でもでも、ママの作る料理には勝てないかなー?」 などと、母の料理の味を思い出してにやけつつ、何かを探している様子。 「えと、女将さんが言ってたのはこっちだよねー」 そんな独り言を言いながら少女、マリンは蛙屋の隣に建てられている大きな建物の前にやって来る。 「うわぁ・・・ここが訓練場なんだぁ」 マリンはドキドキする胸に手を当てながら、小さくコンコンとノックをして、訓練場の大きな扉に触れている方の手にそっと力を込める。 そして、少しだけ開いた扉の隙間からぴょこんと顔を覗かせて、恐る恐る中の様子をうかがう。 「お・・・おじゃましまぁ〜す」 「入ってまーす」 緊張で針金のような動きになっているマリンの挨拶に、そんな間の抜けた返事が帰ってきた。 「シルフ・・・それベタ過ぎ」 先ほどの間抜けな返事をした狐目の男に、隣にいる金髪の凛々しい女性からすかさずつっこみが入る。 「あっ、学者さんのジェーンさんと・・・自称すけこましのシルフさんっ」 「や。ちゃんと覚えてくれてるんだネ、こっちのも」 ジェーンは軽く手を挙げて挨拶すると、そのまま隣のシルフを指差す。 「こら、すけこましは良しとして、自称は余計だ」 そんな口調のシルフだが、声の感じから怒っていない事がわかる。 「・・・どうせなら両方否定しろヨ」 「本当のことだ、諦めるんだな」 そんな二人の会話を「おもしろいなー」、と思いながら聞いていたマリンは、その部屋の中を見回した。 訓練場の中は広く、いくつも巻き藁が並び、刃のついていない様々な種類の練習用武器などが置かれている。 そのままぐるりと視線を動かしていくと、少し離れた所に座っている青いしっぽ髪の少年が視界に入った。 「にょっ」 多分、おそらく、十中八九マリンへの挨拶であろう言葉を口にした少年は、特に何かをするでもなく・・・たれている。 大きな剣に真っ黒な鎧という、かなりごつい出で立ちの少年・・・でもたれている。 「あっ、レイさんだ〜」 と、レイに駆け寄ったマリンは、まるでぬいぐるみで遊ぶようにレイのほっぺをうにょ〜んと引っ張って面白がっている。 「いはいれふ、いはいれふっへ〜」 レイが少し抵抗したぐらいではマリンは離れず、逆に喜んでしまい、さらにうにょうにょとほっぺを引っ張り始める。 「あのですね・・・流石の僕でも怒るときは怒るんですにょ?」 真面目なのかふざけてるのかよくわからない口調ではあるが、そう言われたマリンは慌ててほっぺから手を放す。 「あう・・・ごめんなさい」 怒られたマリンはただでさえ小さな体をさらに小さくさせて、ぺこりと頭を下げた。 「わかればいいです、人の嫌がることはしてはいけませんにょ」 やっぱりふざけてるようにしか思えない喋り方のレイではあるが、その口調は優しいものだ。 「はーい」 マリンは手を挙げて返事をすると、にっこりと笑顔を返した。 その頃、そんな微笑ましい光景を余所に、何やら必死になって窓枠によじ登ろうとしている人影があった。 ようやく窓枠に登ることが出来たその人物は、女性のように華奢な体格で、長い銀髪と尖った耳を持つエルフの青年。 ただ、普通に考えてかなり無理な体勢なので、先程から身体がぷるぷると震えっぱなしだったりする。 そして、そのままの体勢で誰かが気付いてくれるのを待っていると、訓練場の中を探索していたマリンと目が合った。 その瞬間、窓枠を蹴った青年の身体がひらりと宙に舞う・・・ことはなく、本人は跳んだつもりなのだろうが、誰が見ても落ちたようにしか見えない。 「世界最強最悪最大最高最長最多最終まじゅちゅしにして破壊王。そう、我が名はニユ!クリア!!ウェフォン!!!今ここに降ぉぉぉぉぉ臨っっっ!!!!!」 まるで何も無かったかのように立ち上がり、そんなことを叫びながらポーズを決めるエルフの後ろの方で、ちゅどぉおおおおんという無駄に派手な爆発が起きる。 明らかに演出用である。 「今、噛んだよネ?」 「確実に噛んでたな。『魔術師』じゃなくて『まじゅちゅし』らしいな」 「『まじゅちゅし』さんですか、それはまた可愛らしいですねぇ」 マリン以外の3人から次々と突っ込みが入る。 「くぅうう・・・だまれ、だまれぇっ。そんな細かい事は気にするな、俺様は気にしないぃっ」 むきぃっと地団駄を踏みながら、顔を真っ赤にして怒るニユ。 「ねぇねぇ、あのうるさいの・・・何?」 マリンはニユを指差しながら、ジェーン達にそう尋ねた。 「誰?」とは訊かずに、「何?」と物扱いする所など、なかなかの素質を持っているようだ。 さらに追い討ちをかけるマリンのその一言に、ニユの頬がぴくぴくっと引きつる。 「う、うるさいとは何事だ、このちみたんもどきめがぁっ!この俺様の泣く子もわめく美声に酔い潰れるがよいわぁっ!!!」 「てい」 その瞬間、レイのそれはそれは重〜い手刀が、五月蝿くわめくニユの脳天めがけて振り下ろされた。 「ぶぎゅぅっ・・・」 ごすっ、という音と共にニユの意識は深い混沌の闇へと沈んでゆくのだった。 「え・・・と、だいじょぶなの?」 マリンが心配そうにニユを覗き込む・・・訳もなく、木刀の先でつついている。 「心配しなくても大丈夫、だってニユだからネ」 ジェーンは笑いながらそう言うと、マリンの頭をぽむぽむと撫でた。 「それじゃあ、僕はこれを片付けてきますね」 レイはニユの足首を引っ掴むと、そのままずるずると引きずりながら何処かへと歩いていった。 「さて、アタシ達もそろそろ帰ろうか」 「そうだな、そうするか」 「うん、マリンも帰る〜」 マリンは2人と手を繋いで(シルフとは半ば無理矢理)3人並んで訓練場を後にした。 そんなこんなで蛙屋の午後の時間も平和に(?)楽しく過ぎていくのでした。 楽しい時間ほど時が経つのが早く感じるもので、もう空はオレンジ色に染まろうとしている。 先程マリンの母親、フィエナがマリンを迎えに来た。今は女将のユイに、今日のお礼を言っている所だ。 当のマリンはと言うと、椅子に座ってまだ帰りたくないと駄々をこねている。 「まだ帰りたくなーいー。もうちょっといるもん」 そんな膨れっ面のマリンに、箱を持った黒髪の少女が話し掛けてきた。 「お母さんを困らせてはいけない、ぞ」 少女はそう言って、にこりと微笑んだ。 「アリエルおねーちゃん・・・」 「ほら、そんな顔をするな。これは少ないがお土産のケーキだ、帰ってみんなで食べるといい」 「うわぁ、このケーキって手作り?ありがとうっ、おねーちゃん大好き」 「あ・・・いや・・・そんなに大したものではない、から」 アリエルは、嬉しそうに箱を抱えて、自分をおねーちゃんと言ってくれるマリンに、うっすらと頬を染めてちょっぴり照れている。 そんな二人に向かって、厨房の方から長い黒髪のウェイトレスが走ってくる。 「まってまってー、わたしからもお土産ー。じゃじゃーん、クラレス特製こんにゃくプリンー。はいどーぞ♪」 その手に持っている皿の上には、本来はクリーム色であるはずの部分が青紫色のプリンが3つ。しかも、普通ならこげ茶色のカラメルがかけられているはずだが、それには濃い緑色のどろりとした『何か』がかけられている。 マリンが「ありがとー」と言うより早く、クラレスはその場にいた全員によって捕獲されてしまう。 「も〜、せっかく頑張って作ったのに〜」 クラレスの抵抗もむなしく、そのプリンらしき物体はマスターに没収された。 「やれやれ、クラレスにも困ったものですねぇ」 マスターはそう呟きながら、そのプリンだと信じたい物体を手に裏庭の方へと歩いていった。 そんな「ねぇ、プリンだと言って」事件も収まり、マリンの1日冒険者生活も終わりを迎えようとしていた。 「う゛ぅ〜、ぐすっ」 マリンはその大きな瞳に涙をためて、うつむいてしまっている。 「ほらマリン、みなさんにご挨拶しないとダメでしょう?」 フィエナにそう言われても、なかなか言葉が出てこない。 そんなうつむいたままのマリンに、ユイが一冊のノートをそっと差し出した。 「ぐすっ・・・これは?」 「これは、ここ「あごのはずれたかえる亭」の宿帳になっております」 「・・・やど・・ちょう?」 差し出されたノートを手にとって開いてみると、そこにはたくさんの名前が並んでいる。 「その宿帳は、いつも蛙屋をご利用頂いている冒険者のみなさまに、ご記入をお願いしております。この一番新しいページをご覧くださいまし」 「あ・・・これ、マリンの名前・・・朝書いたやつだ」 ぺらぺらとページをめくると、そこには最近書けるようになった自分の名前があった。多少うねうねしてはいるものの、ちゃんと書けている。 それは今朝みんなへの挨拶が済んだ後、ユイにここに名前を書くようにと言われて、頑張って書いたものだった。 「え・・・じゃあ、マリンも蛙屋さんの・・・」 「はい。またのご来店を心よりお待ち申し上げておりますわ」 ユイはそう言って、微笑みを浮かべる。 そこにいるみんなの心を温める、そんな春の日差しの様な微笑みを。 「はいっ、これからもよろしくお願いしますっ」 マリンは溢れんばかりの笑顔でそう言うと、ぺこりと頭を下げた。 周りのみんなからは自然と拍手が沸き起こり、今日から仲間になったマリンのことを改めて歓迎した。 そして、マリンは蛙屋のみんなと挨拶を済ませると、フィエナを引っ張るようにしながら家路に着いた。 マリンが後にした蛙屋では、そろそろ夕食争奪戦の幕が切って落とされようとしていました。 どうやら夜が更けても、蛙屋のにぎやかさには変わりが無いようです。 空には大きな雲がふわふわと浮かんで、柔らかい風がさらりと頬を撫でる、そんな晴れたある日。 その日も蛙屋はいつもと変わらず、ほんわかのほほんとしていました。 いつもと少し違う所があるとすれば、カウンター席に座り、 「ねぇねぇ、何かお仕事ないのー?」 と、マスターに駄々をこねながらホットミルクをご馳走になっている、ちっちゃな冒険者が一人増えていることぐらいでした。 |
あとがき。 まずは、これを最後まで読んでいただいた事に感謝いたします。 某PC達の親、えくせりおんです。 今回の話は、自分のPCと付き合いの長い、馴染みの方々が登場する話、ということで書き始めました。 他にも沢山仲良くしていただいているPCの方々がいらっしゃいますがその方達はまた今度ということで(笑) 一応、オリジナルのキャラが主役になってますので、普段とは少し違った蛙屋を楽しんでいただけたら幸いです。 ラスPLさんのSSがシリアスでとても素敵な感じなので、それに対抗して(?)のほほんとしたのを置かせていただきます(笑) 自分の中にある蛙屋のイメージみたいなのが、上手く表現出来てればいいんですけど、まだまだ修行が足りないようです。 最後になりましたが、出演していただいたPCの皆さんにはこの場を持ってお礼を申し上げます。 多分これからも勝手に出演させると思いますので、その時はまたよろしくお願いします(笑) それでは、ご清読ありがとうございました。 |