123456/epilogue/??

 


一体いつ以来になるだろう。久しぶりに、研究室を出た。
2の月のオランの外気は相変わらず冷たく、思わず回れ右をしそうになってしまったが。
今日は、行かねばならない所がある。
去年のちょうど今頃に、死んだ旧友の墓参りへと。


オランの街は、いつもにも増して喧噪に包まれていた。
普段は使い魔の眼を通してしか見ていないが、実際にそのただ中を行くと、よくわかる。

道すがらの店に立ち寄って、菓子を買う。
そういえば、彼女の小さい頃の将来の夢はお嫁さんかケーキ屋さんだった記憶がある。
口に合うと良いのだが…と思いつつ歩いていると、やがて目的地の墓地に着いた。


人気のない墓地を横切り、たどり着いた墓跡に刻まれている名は…シトリン=ジャスパー。






あの後すぐ、あのアメトリンと名乗っていたアルラウネは処分された。

どうやら、あの子はシトリンが自作のラブ・パッションの原材料とするべく、
自身の血を吸わせて何年も前から側に従わせていた代物だったようだ。
私も長年薬学の研究をしているが、あそこまで成長したアルラウネというのは
そう滅多に見られるモノじゃない。
もう少し成長させ、その記録を残すのはどうかという案もあったらしいが
生育を促すために、あの子がシトリンと共にオランの市民の命を奪ったという事実は覆しようもない。
細かく切り刻まれたその身体は、魔法薬の原材料としては良質で。
薬学に携わる導師達が片っ端から買い取っていった。

かくいう私も諸先輩方の中に混じって、何とかあの子の右手を競り落とした。

最初こそ、これで実験が大幅にはかどる…そう思ってはいたのだけれど。
結局、その右手は私の研究に使われることはなかった。

知り合いのラーダ神官の監修の元、右手は燃やして灰にして。
シトリンの墓に、一緒に埋葬してやった。
身寄りのないあの女が、あの子を決してぞんざいに扱ってはいなかった事は。
あの子が処分される前、何度か会った時に聞いて知っていたから。

それでも正直な話、あれは勿体ない事をした、と今でも良く思う。
ただ、最後まであの子を処分させないよう訴えていた…そして、あの子が処分された事を
冒険者の連中に知らせないよう苦心していた、あのお人好しに感化されたのかも知れない。

この事を知ったら、あいつは一体どんな顔をするだろうか。
あいつのいない今となっては、もう確かめようもない事だけれど。




チョコレートケーキの入った小箱を墓に供え、軽く手を合わせて。
帰ろうと振り向いたら、若者と目が合った。

たかが一介の導師程度が完全に隠匿できる情報なんて何処にも存在しない。
おおかた、彼らも何処からか聞きつけてきたのだろう。

責任を感じてか、それともただの気紛れか。
まぁ、私には関係ないけれど。

小さく笑って。私はその場を立ち去った。

 

 


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